ユルゲン・クロップのリヴァプール8シーズン完全振り返り

目次

ゲーゲンプレス戦術について

ゲーゲンプレスとは、ミドルサードやアタッキングサードで相手にボールを失った直後に、即座に相手選手へプレッシャーをかけてボールを取り戻し、ショートカウンターへと繋げる戦術です。より効率的に敵陣へ素早く攻め込むための戦術として知られています。

相手ディフェンダーにボールを失った直後に生まれる隙を狙い、ラインを後退させるのではなく、ボールを持つ相手選手へ即座に複数人で高いプレッシングを実行するものです。ボールを奪取し返したら直ちにカウンター攻撃を開始します。

この戦術は、誰か一人でも連携できなかったり、強度の高いプレッシングを実行できなければ、戦術として機能しません。試合中は高い強度が要求され、チームに疲労が溜まっているとこの戦術は動きません。戦術への理解とフィジカル能力の両方を併せ持った選手が必要となります。

クロップは長期間チームを指揮していく中で、初期のようなゲーゲンプレスを重視した戦術から、ポゼッションをやや意識した長いシーズンを戦い抜くサッカーへと変化させていきました。


クロップ就任前のリヴァプール

クロップが就任する前のリヴァプールは、プレミアリーグでは一度もリーグ制覇を果たしていませんでした(イングリッシュ・フットボールリーグ時代は最多の18回優勝)。

2015-16シーズン

クロップが就任する前のロジャーズ監督が開幕8試合で3勝3分2敗、さらにヨーロッパリーグ開幕2戦2分という成績から解任された。その後、シーズン途中にクロップが就任し、初戦から代名詞であるゲーゲンプレスを披露しました。

クロップらしさが表れるチームが構築されていきましたが、リーグ戦は8位(過去20年で最低の順位タイ記録)でシーズンを終了(38試合16勝12分10敗)。クロップ初年度は苦戦した印象がありますが、チーム内では何かが変わった前兆を感じさせるシーズンでした。

カップ戦ではカラバオカップ決勝進出、ヨーロッパリーグ決勝進出を果たしました。ゲーゲンプレスをクロップ就任1年目では完全に仕込み切れず戦術が未完成だったためリーグ戦では結果が出ませんでした。しかしカップ戦で良い成績を残せたことから、次シーズンへの期待が持てるシーズンとなった。

2016-17シーズン

クロップがリヴァプールをフルシーズン指揮する初めてのシーズンであった。夏の移籍市場ではマネ、ワイナルドゥム、マティプなどを獲得した。

シーズン前半19試合で13勝4分2敗(リーグ2位)で折り返したが、シーズン後半第20節~24節の5試合で3分2敗と、そこから調子を落とし、最終的にはCL圏内であるリーグ4位でシーズンを終えた(38試合22勝10分6敗)。

このシーズン、リヴァプールはBIG6相手に一度も負けなかった(対BIG6戦績:10試合5勝5分)。6敗のうちすべてが中位・下位チームであった。特にアウェイ戦での勝ち点の取りこぼしが目立ちった。優勝はできなかったが、初のフルシーズン指揮でCL圏内は大成功であった。

2017-18シーズン

夏の移籍市場でサラー、チェンバレン、ロバートソンなどを獲得しました。サラーの獲得により、後の最強3トップが集結します(マネ、フィルミーノ、サラー)。

2016-17のような完璧なスタートダッシュは切れず、開幕10試合で4勝4分2敗でした。得点はできていましたが守備面に不安があり、打ち合いになって大量得点を取っても負ける試合があったり、大量失点で負けてしまう試合が多くありました。

冬の移籍市場で今後のリヴァプールの未来が大きく変わる出来事があった。コウチーニョが退団(サラーの加入などでコウチーニョがチームの絶対的存在でなくなったことや、バルセロナからの熱望により退団)。移籍金は1億3500万ユーロであった。

コウチーニョの移籍金の使い道によりリヴァプールの歴史が変わることとなる。ファンダイクをサウサンプトンから獲得(当時のDF最高額&クラブの最高額8450万ユーロ)。

ファンダイクの加入もあり守備が安定し、リーグ戦ではクリーンシート17回を記録しました。最終的にはリーグ戦4位でフィニッシュ(38試合21勝12分5敗)した。

CLでは、リーグ1位(勝ち点100を達成)のシティと準々決勝で対戦し、2戦合計5-1と粉砕するなど決勝進出まで駒を進めるという結果を残しました。決勝はサラーの前半での負傷やGKカリウスのミスが生まれてしまい、3-1で無念の敗退に終わった。

17-18シーズンは就任3年目でCL圏獲得とCL決勝進出という、完成形まであと一歩というところまでいったシーズンでした。

2018-19シーズン

GKに不安があったリヴァプールが、夏の移籍市場でチームのラストピースとなるアリソンを獲得する。他にはナビケイタ、ファビーニョ、シャキリなどを獲得しました。

開幕6連勝(失点数2)&開幕20試合(17勝3分)無敗を達成という、攻守ともに最強のイレブンが完成していました。

シーズン全体を通して1敗のみという最高の成績を残し、例年ならぶっちぎり優勝である勝ち点を積んだものの、同じく最強のイレブンを完成させていたペップシティがいたことにより、勝ち点1差でリーグ優勝を逃しました。

ペップシティ:38試合32勝2分4敗 勝ち点98
クロップリヴァプール:38試合30勝7分1敗 勝ち点97

リヴァプールが1敗した相手はシティだったこともあり、もしシティに負けていなければ無敗優勝できた可能性がありました。

CL準決勝で、リーグでほぼ負けなしのリヴァプールが1stlegカンプノウでバルセロナ相手に3-0完敗。さらに2ndlegではエースであるフィルミーノとサラーが怪我で出場できないと逆風が吹いていました。フィルミーノとサラーの代わりにはオリギとシャキリが出場しました。

オリギと後半から出場したワイナルドゥムの2得点で同点に追いつくと、リヴァプールのCKで一番有名ともいわれる、バルセロナの選手の意表をついたアーノルドのキックに合わせたオリギのゴールで逆転し決勝進出しました。決勝ではスパーズとのプレミアリーグ同士の戦いで、リヴァプールが勝利してクロップが初のCLを制覇しました。

就任4年目はリーグ戦での激しい優勝争いとCLを制覇したことにより、常勝チームであることを全世界に示しました。

2019-20シーズン

移籍市場ではアドリアンを獲得する程度で、チームの入れ替わりは少なく今いる戦力で戦っていくことでシーズンがスタートしました。

このシーズンはリーグ開幕から8連勝を記録しました。前半戦19試合18勝1分 勝ち点55で、前半戦だけで2位レスターと勝ち点16の差をつけました。開幕から27節まで無敗(26勝1分)&10節から27節まで18連勝という記録を残し、とんでもない勝ち点を積んでいきました。

冬の移籍市場では南野拓海を獲得しました。

カラバオカップはクラブW杯と日程が重なってしまい、クロップ不在のアンダーチームで挑まなければいけなく、5-0でアストンヴィラ相手に敗戦してしまいました。

またCLでは、ラウンド16の1stlegアトレティコ戦に1-0で敗北。2ndlegでは延長まで突入し逆転するも、アリソン負傷により先発出場したアドリアンのミスなども重なり再逆転されてしまい、CLはベスト16で姿を消しました。

CL1stleg、2ndlegの間に行われたリーグvsワトフォード(19位)に3-0の完敗を喫してしまい、リーグ無敗記録が途切れてしまいました。

しかしリーグ過去最速となる7試合を残して、リヴァプールは30年ぶり、プレミアリーグになってから初のリーグ優勝をしました(38試合32勝3分3敗 勝ち点99)。

またスーパーカップ、クラブW杯制覇も果たしました。

このシーズンクロップは2019年のFIFA年間最優秀監督に選ばれました。

2018-19シーズン同様の好調を維持し、圧倒的強さでプレミアリーグを制覇。CLでは不運も重なりベスト16で姿を消すも、クラブは最盛期と呼べる結果を残し、クロップはFIFAの年間最優秀監督を受賞しました。

2020-21シーズン

夏の移籍市場でジョタ、チアゴ・アルカンタラ、ツィミカスなどを獲得しました。リーグ戦開幕3連勝で、昨年と同様の完璧なスタートを切れました。

しかし第4節vsアストン・ヴィラで2-7と大敗北をしてしまいます。第5節vsエヴァートンとのマージーサイドダービーで2-2ドロー。この試合でファンダイクが前十字靭帯損傷で1年の離脱となる大怪我を負ってしまいました。

11月にはジョー・ゴメス、1月にはマティプが離脱と、レギュラーCB全員が負傷離脱という緊急事態が発生してしまいました。

この緊急事態にCBはファビーニョとヘンダーソンが起用されていました。

その結果前半戦19試合9勝7分3敗 勝ち点34の5位と、昨年の常勝を考えると低い順位に沈んでしまいました。

リヴァプールはホームのアンフィールドでこその強さがありましたが、このシーズンはアウェイよりもホームの試合の方が敗戦が多いという結果になってしまいました(18節~29節の間のホーム戦6連敗を喫す)。コロナウイルスの影響により観客がいなかったことなどが原因だと考えられる。

29節終了時点では、このシーズン最低順位の8位に沈みました。しかし、クロップリヴァプールはここから調子を取り戻し、30節から残りの9試合を無敗(7勝2分)で終え、CL圏内の3位でシーズンを終えました(38試合20勝9分9敗)。

ディフェンダー陣の怪我による崩壊やコロナウイルスによるアンフィールドの崩壊に耐え、劇的にCL圏内でシーズンをフィニッシュしました。

2021-22シーズン

昨シーズンのディフェンダーの離脱を考慮し、夏の移籍市場ではコナテを獲得しました。リーグ開幕10試合を無敗で終えました(6勝4分)。CLでも死の組と呼ばれていたミラン、アトレティコ、ポルトと戦いグループステージ全勝という結果を残しました。

冬の移籍市場でルイス・ディアスを獲得しました。マネとポジションが被るかと考えましたが、右サラー、左ルイス・ディアス、トップにマネの形が確立しました。

南野のカップ戦の活躍もあり、リーグ、CL、カラバオ杯、FA杯の4冠を狙える可能性のあるシーズンとなっていました。

カラバオ杯では、チェルシー相手にPK戦で22人目までもつれ込む壮絶な戦いの末、リヴァプールが制覇しました。FA杯でも同様にチェルシー相手にPK戦の末、優勝をつかみました。

リーグ戦では2018-19シーズン同様、ペップシティに一歩及ばず優勝を逃しました。
ペップシティ:38試合29勝6分3敗 勝ち点93
クロップリヴァプール:38試合28勝8分2敗 勝ち点92

CLでは決勝まで進むも、レアルマドリード相手に0-1で敗戦し、カップ戦のみの2冠に終わるシーズンでした。

2022-23シーズン

マネ退団、ヌニェス、ガクポなどを獲得しました。

このシーズンはマネ退団によりできた穴が塞がりきらずに攻撃に厚みを出せずに終わったシーズンでした。

開幕3試合2分1敗で、いままでのリヴァプールではなかったような開幕となりました。その後少しずつ復調するも、W杯明けの5試合でたったの3得点のみしかできず、得点力に悩まされる時期がありました。

アーノルドを中盤に起用するなど様々なことを試すも、リーグ戦の結果は5位でCL権を逃してしまいました。CLでもラウンド16でマドリーに2戦合計3-5の敗北。カップ戦でもそれぞれで4回戦負けと、結果を出せずに終わってしまいました。

2023-24シーズン

クロップのラストシーズンでは、夏の移籍市場で中盤の総入れ替えを行いました。ファビーニョ、ヘンダーソン、ケイタ、ミルナー、チェンバレン、フィルミーノなどを放出し、ソボスライ、マクアリスター、遠藤、フラーフェンベルグを獲得しました。

ラストシーズンは、今までクロップリヴァプールの中核を担っていた選手たちを放出し、今後のリヴァプールの始まりのシーズンとも言えます。次に来る監督の土台作りでした。

リーグ戦では38試合24勝10分4敗の3位で、CL圏内に返り咲きました。カラバオカップでは若手を中心に起用し優勝しました。ELでは、リヴァプールがヨーロッパの生態系を破壊するかと思われましたが、最終的には準々決勝でアタランタに敗れ、ベスト8で終わりました。

クロップリヴァプールのタイトル一覧

  • リーグ優勝:1回
  • FA杯:1回
  • カラバオ杯:2回
  • CL:1回
  • スーパーカップ:1回
  • クラブW杯:1回
  • コミュニティーシールド:1回

計8つのタイトルを獲得しました。


クロップリヴァプール総評

ユルゲン・クロップの8シーズンは、間違いなくリヴァプールの現代史において最も輝かしい時代として記憶されるでしょう。

戦術革新と哲学の浸透

クロップが持ち込んだゲーゲンプレスは、単なる戦術を超えてリヴァプールのアイデンティティとなりました。初期の未完成な状態から、最終的にはポゼッションも意識した完成度の高いサッカーへと昇華させたのは、クロップの戦術眼と適応力の証明です。ハイプレスによる即座のボール奪取から、相手を圧倒する攻撃展開まで、現代サッカーの理想形の一つを築き上げました。

段階的なチーム構築の妙

就任当初のリーグ8位から30年ぶりのリーグ制覇まで、クロップの補強戦略は見事でした。マネ、サラー、フィルミーノの最強3トップ、ファンダイクによる守備の安定化、アリソンという最後のピース獲得まで、各ポジションで的確な人材を見極め、チームとしての完成度を段階的に高めていきました。特に、コウチーニョの移籍金でファンダイクを獲得した判断は、リヴァプールの歴史を変えた決断として語り継がれるでしょう。

数字が物語る圧倒的な成果

97ポイントでも優勝できなかった2018-19シーズンの悲劇は、逆にクロップリヴァプールの到達レベルの高さを示しています。翌2019-20シーズンの99ポイントでの圧勝、開幕27節無敗、18連勝などの記録は、プレミアリーグ史に刻まれる驚異的な数字です。38戦32勝3分3敗という成績は、まさに完璧に近いシーズンでした。

逆境を乗り越える精神力

2020-21シーズンのCB大量離脱危機では、ファビーニョとヘンダーソンをCBに起用するという苦肉の策を強いられながらも、最終的にCL圏内を死守しました。8位まで沈んだ絶望的な状況から、終盤9戦7勝2分での大逆転劇は、クロップの指導力とチームの結束力を象徴する出来事でした。

次世代への完璧な橋渡し

最終シーズンでの大幅な世代交代は、クロップの慧眼が光りました。ファビーニョ、ヘンダーソン、フィルミーノといった功労者を放出し、ソボスライ、マクアリスター、遠藤航といった若手や中堅選手で中盤を再構築。次期監督への土台を完璧に整えて後任に託す姿勢は、真のリーダーとしての責任感の表れでした。

歴史的意義

30年間途絶えていたリーグ制覇を成し遂げただけでなく、リヴァプールというクラブを世界最高峰のレベルに押し上げたクロップの功績は計り知れません。8つのタイトル獲得という数字以上に、リヴァプールファンに夢と希望を与え続けた8年間でした。

ゲーゲンプレスから始まったクロップ革命は、やがてプレミアリーグ全体の戦術レベル向上にも影響を与え、現代サッカーの発展に大きく貢献しました。ユルゲン・クロップのリヴァプール8シーズンは、単なる一監督の成功談を超えて、現代フットボール史における金字塔として永遠に語り継がれることでしょう。

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