2024-25シーズン、AFCボーンマスはクラブ史上最高の躍進を遂げました。プレミアリーグ9位フィニッシュ、史上最高の56ポイント獲得、そしてヨーロッパ大会出場権まであと一歩という歴史的なシーズンでした。しかし、その成功が皮肉にも次なる困難の始まりとなりました。
(出展:AFC Bournemouth公式instagramより)
守備陣の完全解体:€200mの大規模流出
(出展:AFC Bournemouth、dean huijsen公式instagramより)
ボーンマスは今夏、守備陣の中核選手を次々と失いました。総移籍金収入は約€200mに達し、3人の若き守備陣だけで€175m以上の利益を生み出しました。
主要移籍リスト
- ディーン・ハイセン → レアルマドリード
- ミロシュ・ケルケズ → リヴァプール
- イリア・ザバルニー → パリ・サンジェルマン
- ケパ・アリサバラガ → アーセナル
昨季の成功の中心となった守備陣で残るのは、キャプテンのアダム・スミスのみとなりました。
移籍の経済的インパクト
ボーンマスがこれらの3選手に投資した総額は約€60mでしたが、売却により約€200の収入を得ました。特に注目すべきは以下の利益率です:
- ハイセン: €15m → €60m(€45m利益)
- ケルケズ: €20m → €47m(€27m利益)
- ザバルニー: €23m → €66m(€43m利益)
中堅クラブが直面する構造的ジレンマ
クラブが躍進して選手が活躍してしまうと起きる不幸な現象があります。次のシーズンでは代替補強が必須となり、1部残留または中位を維持するには補強を成功させなければいけません。
選手はより上のレベルに行けるチャンスをつかめますが、クラブ側としては移籍金を得られるとはいっても、安定した順位を取り続けるためには活躍した選手が翌年にはチームにいない存在になってしまうことは非常に厳しいのが現実です。
これには選手がリーグレベルやネームバリューだけではなく、生活をする以上給料を多く払うチームを求めるからです。クラブ間での金銭面の大きな差がこの問題を引き起こしています。
プレミアリーグ一極集中の実態
強いチームがお金を持っているのはもっともですが、リーグ間でもスペインではサラリーキャップ制度があることや、イタリアでは絶対に経営赤字を出さないという文化が根づいています。これによりプレミアリーグとの差が大きく広がっています。
中堅クラブはあくまでビッグクラブへ才能ある選手の”供給元”に過ぎないのが今の現状です。クラブの格を引き上げタイトルを狙えるクラブにすることはとても難しいことです。
ボーンマスの補強戦略と課題
(出展:AFC Bournemouth、antoine semenyo公式instagramより)
既に完了した補強
ボーンマスは失った戦力を補うため、以下の補強を実施しました:
- バフォデ・ディアキテ(リール) – ザバルニーの後釜
- アドリアン・トリューファート(レンヌ) – ケルケズの代役
- ジョルジェ・ペトロヴィッチ(チェルシー) – ケパの代役
残る課題
しかし、クラブはセンターバックの人員不足が深刻で、「次のハイセンや次のザバルニー」を見つける必要があります。
昨季9位の成績を収めたボーンマスが主力を大量に引き抜かれた結果、中位どころか残留争いをすることになる可能性も大いにあります。
悪循環のサイクル
結果的に、今季残留できたとしてもまた来季には主力が引き抜かれてしまう悪循環が今のサッカー界には起きてしまっています。また、降格するとまとまった資金を得るために売却が必須になります。
サッカーはあくまでビジネスの一環であるため、このような結果を引き起こしてしまうことは仕方のないことですが、ビッグ6以外のクラブが安定して中位またはヨーロッパ大会の出場権を狙うのは非常に難しいのが現実です。
解決への道筋
そのためにまずはクラブ間、リーグ間での金銭の制限を一律にすることが求められるでしょう。中位クラブにはより優れたスカウトやポテンシャルを秘めた無名若手の補強が必要です。
ビッグクラブに売却して稼いだお金でどのような補強をするのかが注目ポイントです。
ボーンマスの今後の課題
ヨーロッパ5大リーグで最小規模のスタジアム(収容人数11,307人)を持つボーンマスにとって、限られた収入源の中でチーム力を維持することは至難の業です。
アンドニ・イラオラ監督の手腕と、スカウティング部門の継続的な成功が、この構造的不利を乗り越える唯一の希望かもしれません。
まとめ:現代サッカー界の構造的問題
(出展:AFC Bournemouth公式instagramより)
プレミアリーグ公式も「この守備陣は忘れられることはないだろう」とツイートするほど、ボーンマスの2024-25シーズンの守備陣は特別な存在でした。
しかし、その成功こそが解体の原因となった現実は、現代サッカー界の構造的問題を浮き彫りにしています。才能ある選手を育て上げても、最終的には資金力のあるクラブに奪われてしまう中堅クラブの宿命。この問題の根本的解決には、サッカー界全体での制度改革が不可欠でしょう。
ボーンマスの新シーズンは、まさに中堅クラブの真価が問われる試金石となります。果たして彼らは再び奇跡を起こすことができるのでしょうか。
本記事は、transfermarktおよび各種スポーツメディアの報道を参考に、kitok.netが独自に分析・執筆したものです。